一輪奏

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17

 頭を割られた道端の地蔵を、ハビアンは黙って見下ろしていた。

 坂口の屋敷が燃えたのは深夜だった。火を使う時間ではない。火鉢の火の不始末か。――あるいは。
『大村は領主も領民もみな信徒なんだろう?会(コンパニア)に危害を加える者がいるとは思えないけどな』
 バレトはそう言って、ハビアンの疑念を軽く流した。
(そうなら良いが)
 領主がキリシタンだということは、領民は自らの意思に関係なく改宗を迫られるということである。しかも大村領は、大友や有馬領と並んで寺社の破壊が激しかった。神社仏閣を取り壊して、教会(エケレジア)で使う薪にしたなどという話を、ハビアンは一度ならず耳にしていた。
 自らの信仰が間違っているとはハビアンは思わない。しかし布教の方法で一切反感を買っていないとは言い切れないのだった。

 そんなことを考えながら加津佐への道を歩いていて、ハビアンは道端の苔むした四角な石にふと目を留めた。上の面は真ん中だけ境界線でもあるかのように色が違い、苔も生えていない。この上に何かが長いこと据えられていたことを物語っていた。道の脇に足を踏み入れて草むらを探ると、草鞋の先に硬い物が触れた。地蔵――正確には、地蔵の胴体だった。頭は打ち首にされたように体から離れてごろりと転がり、さらに叩かれたのか、半分しか残っていなかった。偶然倒れただけでこうはならない。

 ハビアンは膝をつき、緩やかな弓なりに彫られた地蔵の目を指でなぞった。叩き割られてなお、その顔は柔らかな笑みをたたえていた。
「……仏が、あまりさびしそうに見ゆる」
 もう一度顔を撫で、立ち上がって歩き出した。

 “いかにハビアン、そののちは何事かある。さては仏があまりさびしさうに見ゆる。何か苦しからうぞ。……”

 ハビアンは思わず右手を握る。地蔵の顔の感触が、いつまでも指に残っていた。
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by stan-nak | 2013-09-07 23:29 | 小説「海からの風」 | Comments(0)

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