一輪奏

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6 烽火(ほうか)の事

 「私は五位に叙せられてから今の位に至るまで、朝廷に恩を受けていない事などありません。ですから法皇にもしものことがあれば、駆け付けて御所を守護いたします。しかしそれでは、父の恩にそむいてしまうことになるのです。だからと言って親に尽くそうとすれば、朝廷に対しては不忠の逆臣となってしまいます。私の進退はここに窮まりました。この上は、ただ私の首をお刎ねください。父上とともに院参することもできず、院の御所を守ることもできないのですから。侍ひとりに命じて私の首を刎ねることなど、いとも容易いことではありませんか」

 と泣きながらまくし立てる重盛に、清盛は「いやいや、そこまでは思ってもみなかった」とたじたじ。
 重盛は中門の兵士らに、「法皇を迎えに上がるのなら、私の首が刎ねられたのを見届けてからにせよ」と告げて自宅に戻ったのでした。

 小松殿に戻った重盛は突然、兵士に招集をかけます。ちょっとやそっとでは騒ぎ立てない重盛の緊急招集とあっては余程のことに違いないと、西八条に集結していた兵らも急いで小松殿へ。これを見た清盛、「重盛はわしに弓を引く気か!」と青ざめます。貞能が「そんなことがあるわけないでしょう。さっきの重盛殿のお話を聞いて兵士たちが感動しちゃったんですよ」と言うと清盛は、「いやいや、重盛と仲違いなどあってはいかん」と鎧を脱ぎ、法皇を拘束しようという話もどこへやら、慌てて袈裟を着て心にもない念仏を唱えるのでした。



 * * *

 前の章段から始まった重盛の諌言が見事成功。小松殿、一番の見せ場です。原文は、


 「悲しきかな、君の御為に奉公の忠を致さんとすれば、迷盧八萬(めいろはちまん)の頂よりもなほ高き父の恩たちまちに忘れんとす。痛ましきかな、不孝の罪を遁れんとすれば、君の御為には、不忠の逆臣ともなりぬべし。進退これ窮まれり。是非いかにもわきまえがたし。申し請くる所詮は、ただ重盛が首を召され候へ

 やー、格好いいですね。文字通り体を張って、父の暴走を止めたわけです。息子にここまで言われたら、そりゃあ怒りも急速に収まるというもの。そのあとの、「院参の御供に於いては、重盛が首の刎ねられたらんを見て仕れ」も好きです。

 …とまあ、重盛に後光が差して見えるこの場面なんですが、その重盛の諌言にオロオロになってしまう清盛がそれ以上に面白いです。「いやいやそれまでの事は、思ひも寄りさうず」なんて、慌てふためいてるのが見えるようです。「心にも起らぬ念誦してこそおはしけれ」というのも滑稽。清盛って怒っている最中は鬼の形相なのに、ちょっと諌められるとすぐ我に返ってしまって、しかも我に返った後の行動が非常に漫画的なんですよ。もちろん、平家物語が意図的にそういう描写にしているからでもあるのでしょうが。
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by stan-nak | 2013-03-20 13:22 | 平家物語 巻二 | Comments(0)

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