「一輪奏」ご案内 / About

 ご訪問ありがとうございます。

 当ブログ「一輪奏」(いちりんそう)は、平家物語やその周辺の作品について解説したり突っ込みを入れたり想像を膨らませたりしながら好き勝手に語る、平家ファンのブログです。ちょっとだけ創作もやってます。

 歴史的事実についての記載はできるだけ調べたうえで書いていますが、まだまだ勉強不足の点も多いため、間違っている点もあるかと思います。学術的な調べ物・探し物のお役には立てない可能性が高いですが、その点はどうぞご容赦ください。 Natsu拝

 コメントは承認制です。スパムと思われるコメントは管理人判断で削除しております。メールでのご連絡は、stan-nak※excite.co.jp にお願いいたします(※をアットマークに変えてください)。

 旧サイト開設日:2001年10月16日
 当初はジオシティーズでしたが、その後FC2に引っ越し、2013年3月にブログ化しました。

Thank you for visiting my blog.
This blog is about:
-Tale of the Heike (Heike monogatari)
-Tale of Hogen (Hogen monogatari)
-Tale of Heiji (Heiji monogatari)
-Amakusaban Heike monogatari (a colloquial version of Tale of the Heike, published in Amakusa, Japan by Society of Jesus in 1592) and its author, a Jesuit brother Fucan (or Fucansai) Fabian* (1565-1621).

*Also known as Fukan Habian or Fukansai Habian.

Blogger: Natsu
Twitter account: @Heike_gatari
E-mail address: stan-nak[]excite.co.jp (Please replace [] with an at sign. E-mail messages in English are accepted, but simple English would be appreciated.)


web拍手 by FC2
[PR]
# by stan-nak | 2019-12-31 23:59 | ご案内 | Comments(0)

ハビアン逍遥(仮)48

 ハビアンは教会に帰ると、足を拭くのもそこそこに大股で書庫に入った。平家物語を手に取る。「木曾の願書」は中ほどのはず——と思い、その段を見つけた。
「……嬰児の、貝を以て巨海を測る」
 秀賢の言う通り、この文句があった。この願文は漢文調で難しく、日本語の学習者には不向きと判断して和らげに入れなかった。それで、斜めに読んでいたのだろう。
 自室に戻り、書きかけの本の草稿を取り出した。キリシタン宗門の段を開く。
〝この宗の教への真実にして広大に侍ることは、天地を紙となし、よろづの草木を筆とし、西の海を硯(すずり)として書くとも、いかで書き尽くすべきなれば、ましてや身づからなどがやうなる者の、この教へを語り参らせんとて、一つの理(ことわり)をも申し顕(あらは)さんとすることは、げにおこがましき真似にてさふらへども〟
 ハビアンは机の前に座った。硯箱を開けて墨をすり、筆先に吸わせる。
「一つの理をも申し顕さんとすることは……たとえば」
 続く箇所を線で消し、横に書き直した。
〝たとへば嬰児の貝を取りて滄海を量らんとするやらんにてさふらへども〟
 筆を置き、鮮やかな墨あとを眺める。漢書から平家物語に入ったことわざは、アウグスティヌスの逸話になぜか似ている。寺で学問を積み、キリシタンとなり、平家物語と関わることになった自分に似合いだと思った。

 初夏になり、加賀から清原家を経由してハビアンに文が届いた。マリアからだった。いわく、教会に来る娘らに手習いを教え始めた。ほとんど平仮名で刷られた「どちりなきりしたん」を教材にしたり、「エソポのハブラス」の話をしたりしているという。ハビアンはその様子を思い描いた。マリアはよい師匠なのだろう。頭のいい人だから。それを本人に言えば、そんなことはない、自分は男子ではないのだから、学者になるように育てられてなどいないから——と言うだろうが、本質的な聡明さとは、そういうことではないとハビアンは思っていた。
 この年、都の教会にも小さからぬ変化があった。女子の修道会ができたのだ。内藤如安の妹で、信仰堅固で知られたジュリアの発案だった。エウロウパには女人だけの修道会があるとパードレから聞き、以前から関心を持っていたらしい。キリシタンの女人たちが集まって生活を共にし、祈りをささげ、貧者や孤児の世話をする。初めは数人だったが、徐々に増えて行った。織物や染め物、繕い物などをして、細々ながら収入もあるようだった。
 かつてトマスは、母は都の南蛮寺でかくまわれて自分を生んだと語っていた。モニカの世話をしたのはこうした女たちだったかもしれないと、ハビアンは思った。

[PR]
# by stan-nak | 2018-02-17 23:30 | 小説「ハビアン逍遥」(仮) | Comments(0)

ハビアン逍遥(仮)47

 数日後、清原家の文庫(ふみくら)から借りていた本を返しに行くと、秀賢が屋敷にいた。
「以前、叔母があなたのことをずいぶん褒めてござった。抜群(ばっくん)の才があり、平家物語の和らげを任されていたと」
「いえ、そのような。まだまだ浅学の身でござる」
 ハビアンの謙遜は、本を書く中での実感から出たものだった。が、秀賢には単なる社交辞令に響いたのか、必要以上に打ち解ける気がないかのような顔は変わらなかった。
「そういえば、キリシタン宗門は唐(から)の国にも伝わってござるのか」
 唐突な問いに、ハビアンは面食らう。
「確か、コンパニアのパードレ——伴天連が、明国でも教えを説いておいでと聞いてござるが」
「いや、明国ではのうて、もっと昔に」
 秀賢が何を聞きたいのか、ハビアンにはよく見えない。
「あの。どういうことでござる」
「……叔母から聞きまらしての。何でも貴殿のなさった話とかで、キリシタン宗門の玄義は、人には会得しきれぬもの。それをくまなく解き明かそうとするのは、童(わらんべ)が貝殻で海を量ろうとするも同然じゃと。漢籍にもよう似た――と言うか、ほとんど同じ言い回しがござるが、南蛮宗門がいにしえの唐国(からくに)にまで及んでいたということなのかと」
「確かに、マリア殿にその話をいたしまらしたれども……」
 漢籍にそんな言葉があっただろうか。ハビアンは記憶の引き出しをとっさにいくつか開けてみるが、思い当たらない。年下相手に張り合うのもみっともない気がして、あっさりあきらめた。目の前にいるのは二十代の青年とはいえ、遠からず帝に学問を授ける立場なのだ。
「漢籍のほうは不勉強で存じまらせぬ。何という言葉でござろうか」
 秀賢は相変わらず、感情の読み取れない目をじっとハビアンに向けていた。
「『嬰児の貝を以て巨海(こかい)を測る』。出典は『漢書』であったかと。私はまた、貴殿はご存知とばかり」
「あ、いや、恥ずかしながら知りまらせなんだ。『漢書』にそのような成句が……身共がマリア殿にお話し致いたは、南蛮の高名なパードレが」
「平家物語にも出て参りまらするが、お読みではござなかったげな」
 ハビアンの講釈には興味がないと言わんばかりに、秀賢は平然と話の糸を切った。
「『木曾の願書』でござる。よければお確かめあれ。では」
 返事も聞かずに、秀賢はもうきびすを返して屋敷の中へ戻っていった。ハビアンはあっけに取られたようにその背中を見送った。

[PR]
# by stan-nak | 2018-02-13 21:36 | 小説「ハビアン逍遥」(仮) | Comments(0)

ハビアン逍遥(仮)46

「そりゃ、誰だってそうさ。一人の人間に分かることなんて……でも、貝殻で水を汲むことをやめたくないのも人間だよな。全部は汲めないと分かっていても、一回でも多く汲みたいんだ」
「……そうですね」
 長崎のキリシタン衆なら南蛮の伴天連は見慣れているが、京ではそうとは限らない。黒い修道服を着て、遠い国の言葉で話す南蛮人と日本人の二人連れを、通りすがりにちらちらとうかがう者もいれば、遠慮もなく目玉を見開き凝視してくる者もいる。その視線を感じつつ、ハビアンは気付いていないふりをして、椀に目を落とす。
「本、楽しみにしてるよ。できたら長崎に送ってくれ」
「長崎?」
 思いがけない地名が出て、ハビアンはおうむ返しに聞き返した。
「セルケイラ司教の秘書を命じられてね。近々、都を発つ予定だ。お前とは入れ違いになってしまうな」
「……そうでしたか」
「もうちょっと、海の水を汲んでみるよ。僕は僕の貝殻で」
 そう言うとバレトは椀をあおり、最後に残った茶を軽く音を立てて飲みほした。
 エウロウパから来たこの神父が、こうして打ち解けて話をしてくれることを、ハビアンはありがたく思った。日本人と必要以上のことは話さない外国人会士もいれば、日本人会士でも、身分の差や、外国へ渡った経験の有無を理由に軽んじてくる者もある。バレトのような存在は、決して当たり前ではない。
「パードレ。一つ、お伺いしたいのですが」
「何」
「以前――私が平家の和らげを書いていた頃、パードレはおっしゃいました。国が違っても人はそう変わらない、細かいところが違っても、目や鼻の場所は同じなのだからと。今でもそうお思いですか」
 問いかけてきたハビアンの顔に、バレトは黙って横目で視線を走らせた。ハビアンの言った「横眼鼻直」を、かつてバレトはそう解釈した。
「うん。思ってる」
「……それを聞いて安心しました。その言葉が今でも記憶に残っていたものですから。……それに……これからも、忘れたくないと思っています」
 バレトは一瞬、両の眉を上げた。が、椀を手にそそくさと立ち上がった。
「何だよ、真面目くさって。まるでイルマンみたいだ」
「何ですか、それ。私はイルマンですよ」
 茶屋に椀を返したバレトに置いて行かれそうになり、ハビアンも慌てて立ち上がる。
「もう生涯会えないみたいな物言いをするなって言ってるんだよ」
 先にすたすた歩き出したバレトに、ハビアンは大股で追いついた。
「パードレこそ、私としばらく会えないと思ったから茶に誘ったんじゃないんですか? 名残りを惜しもうとして」
「は? 僕はただ茶が飲みたくなっただけだよ。その時たまたまお前が目の前にいただけじゃないか。やだねえ、自意識過剰な奴って」
「見え透いた言い訳しないでくださいよ、いい年して。来年は四十でしょう」
「そこで言うかね、年のことを」
 あきれた口調でこちらを見てきたバレトと目が合い、ハビアンは小さく噴き出した。バレトも笑った。

 下京の教会に戻ったハビアンは、足を洗おうと玄関に腰を下ろした。目は知らず知らず、たらいに張った水の面(おもて)に引き寄せられていた。のぞき込むと、三十八になった坊主頭の男がいる。ハビアンが家を出たとき、父はいくつだったのだろう。三十、いや、三十半ばか。それより後の父の顔をハビアンは知らなかった。
(詮無いことじゃ。もはや探す術すらないに)
 たらいに足を突っ込むと、水鏡の中の顔が消え去った。

[PR]
# by stan-nak | 2018-02-12 23:27 | 小説「ハビアン逍遥」(仮) | Comments(0)

参考文献:キリシタン史(個人を扱ったもの)

 キリシタン史を扱った文献のうち、特に個人を取り上げたものです。購入できるものは書影またはタイトルのクリックでAmazonに、オープンアクセスのものは掲載サイトに飛びます。


H・チースリク「ファビアン不干伝ノート」『キリシタン文化研究会会報』15:3、1972 年


釈徹宗「不干斎ハビアン―神も仏も棄てた宗教者」(新潮選書、2009年)



マイケル・クーパー著、松本 たま訳「通辞ロドリゲス―南蛮の冒険者と大航海時代の日本・中国」(原書房、1991年)

青山敦夫「活版印刷人ドラードの生涯」(印刷学会出版部、2001年)


天正遣欧使節に同行して印刷技術を学び、帰国後はキリシタンの出版活動に大きく貢献した日本人、コンスタンチノ・ドラードについての本。天正使節の4人に比べるとドラードの知名度はかなり低いため、彼1人にスポットを当てた本は貴重です。

海老沢有道「人物叢書 高山右近」(吉川弘文館、1958年)


キリシタン大名といえばこの人。刊行から70年経ち、記述が古く感じられる部分もありますが、今でも一応定番かと。

中西裕樹「高山右近─ キリシタン大名への新視点」(宮帯出版社、2014年)



H.チースリク「高山右近史話」(聖母の騎士社、2003年)



山下洋輔「高山右近の寺社破壊に関する一考察」 『早稲田大学大学院教育学研究科紀要 別冊』15:2, 2008年

安廷苑「細川ガラシャ」(中公新書、2014年)




【天正遣欧使節】

若桑みどり「クアトロ・ラガッツィ」上下巻(集英社文庫、2008年)



小佐野 重利「《伊東マンショの肖像》の謎に迫る: 1585年のヴェネツィア」(三元社、2017年)


2014年に発見されて大きく報じられた「伊東マンショの肖像」について、発見の経緯が記されています。

[PR]
# by stan-nak | 2018-02-12 15:50 | Comments(0)

ブログ移行中。


by stan-nak

カテゴリ

全体
ご案内
平家物語 巻一
平家物語 巻二
平家物語 巻三
平家物語 巻四
平家物語 巻五
平家物語 巻六
平家物語 巻七
平家物語 巻八
平家物語 巻九
平家物語 巻十
平家物語 巻十一
平家物語 巻十二
平家物語 灌頂の巻
保元物語
平治物語
人物考―平家
人物考―源氏
人物考―宮廷
「平家」雑想
大河ドラマ「平清盛」
小説「海からの風」
小説「ハビアン逍遥」(仮)
シェイクスピア
映画
雑談
未分類

以前の記事

2019年 12月
2018年 02月
2018年 01月
2017年 12月
2017年 11月
2017年 10月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 08月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2014年 08月
2014年 05月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月

フォロー中のブログ

最新のコメント

>長崎歴史文化博物館さま..
by stan-nak at 22:42
ご来館、そしてブログでの..
by 長崎歴史文化博物館 at 16:44
ゆきめさん、コメントあり..
by stan-nak at 12:50
ブログではお久しぶりです..
by ゆきめ at 08:45

最新のトラックバック

検索

タグ

ブログパーツ

最新の記事

ハビアン逍遥(仮)48
at 2018-02-17 23:30
ハビアン逍遥(仮)47
at 2018-02-13 21:36
ハビアン逍遥(仮)46
at 2018-02-12 23:27
参考文献:キリシタン史(個人..
at 2018-02-12 15:50
参考文献:キリシタン資料ほか
at 2018-02-12 15:40

外部リンク

ブログジャンル

創作小説・詩
歴史