「一輪奏」ご案内 / About

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 当ブログ「一輪奏」(いちりんそう)は、平家物語やその周辺の作品について解説したり突っ込みを入れたり想像を膨らませたりしながら好き勝手に語る、平家ファンのブログです。ちょっとだけ創作もやってます。

 歴史的事実についての記載はできるだけ調べたうえで書いていますが、まだまだ勉強不足の点も多いため、間違っている点もあるかと思います。学術的な調べ物・探し物のお役には立てない可能性が高いですが、その点はどうぞご容赦ください。 Natsu拝

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 旧サイト開設日:2001年10月16日
 当初はジオシティーズでしたが、その後FC2に引っ越し、2013年3月にブログ化しました。

Thank you for visiting my blog.
This blog is about:
-Tale of the Heike (Heike monogatari)
-Tale of Hogen (Hogen monogatari)
-Tale of Heiji (Heiji monogatari)
-Amakusaban Heike monogatari (a colloquial version of Tale of the Heike, published in Amakusa, Japan by Society of Jesus in 1592) and its author, a Jesuit brother Fucan (or Fucansai) Fabian* (1565-1621).

*Also known as Fukan Habian or Fukansai Habian.

Blogger: Natsu
Twitter account: @Heike_gatari
E-mail address: stan-nak[]excite.co.jp (Please replace [] with an at sign. E-mail messages in English are accepted, but simple English would be appreciated.)


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# by stan-nak | 2017-12-31 23:59 | ご案内 | Comments(0)

ハビアン逍遥(仮)40

「……六日かかると聞いておりゃる。なれども、内藤様の御家来衆と共に参りまらするほどに、道中の心配はおりない」
「道中のことだけではのうて、暮らしも。雪深いところでござるに、都育ちのあなたには厳しすぎるのでは」
「……わたくし、雪は好きでござれども」
「じゃほどに、それこそ都育ちじゃと申してござれ。都の雪と北国の雪が同じはずはござるまい」
 問答を重ねるうちに、つい責めるような口調になってしまう。マリアがわずかに身をすくめたのが分かった。
(違う、違う。こんなことを言いたいのではない)
 強ばったマリアの顔の上で、眉間に小さなしわが寄った。
「お言葉なれども、ハビアン殿とて物心ついたときには都のお人でござっつろう? 加賀の暮らしはご存じないと思いまらするが」
 たまらなくなって、ハビアンは畳に勢いよく両手をついて頭を下げた。
「相済みまらせぬ。このようなことを言いに来たのではござない。……京へ行けとパードレから命じられたとき、うれしゅうござったに、また離れ離れになるのかと思うて……お許しあれ。右近様は雪殿を見込んでお声をお掛けあったに相違ないに」
 本当に自分は未熟だ。マリアにとってよいことかどうかよりも、マリアが自分のそばにいられるかばかり気にしてしまう。それが叶わぬとなると、つむじを曲げる。マリアのこととなると幼稚もいいところである。なぜ快く送り出してやれないのか。
 どんな顔をすればいいのか分からずうつむいていたハビアンの耳に、はあ、という長いため息が聞こえた。恐る恐る顔を上げると、マリアが力の抜けた顔で見下ろしていた。
「もう! それならそうと、先におしゃって下され。なぜハビアン殿がこれほど声を荒らげるのかと、困惑いたしまらした。私が加賀へ参るのがそんなに悪いことなのかと」
「いえ、そうではござない。……まことに、お恥ずかしい限りで……身共はただ、雪殿の近くで働けると思うたら、上洛(しょうらく)が楽しみでならず……」
 ハビアンの言葉が先細りになる。マリアがこぶし一つ分にじり寄った。
「ハビアン殿が京でお働きになると、もっと早う伺うていたら、迷うたと思いまらする。なれども右近様のお招きがあったとき、行きたいと思いまらしたのじゃ。ハビアン殿の生国じゃほどに、見たいと思うておりゃる。ハビアン殿を生んだところじゃほどに。なりまらせぬか」
 マリアは濁りのない目をじっとハビアンに向けていた。ハビアンは思い出した。この人はいつも自由だ。どこにいても、心は何にも縛られていない。自分はそこに魅かれたのだ。ようやく、ハビアンの口から落ち着いた声が出た。

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# by stan-nak | 2017-11-19 20:56 | 小説「ハビアン逍遥」(仮) | Comments(0)

ハビアン逍遥(仮)39

 一年半ほど経った一六〇三(慶長八)年の早春、ハビアンに異動の命が下った。任地は下京の教会。イルマンとして都で働くことになったのだ。
 「本の執筆が終わってないのに、無理を言ってすまない」と上長に言われたが、「いえ、もうほとんど書き上がっています。仕上がったら印刷できるよう、すぐ長崎に送ります」と答えるのに、少しのためらいもなかった。それどころか、その声は珍しく上ずって聞こえたかもしれない。
 都にはマリアがいる。始めて会った二十一の時のように、毎週でも会えるかもしれない。そう思うと胸が弾んだ。荷作りの間も、瀬戸内の船旅の間も、体がふわふわと一、二寸浮き上がっているかのようだった。都入りし、下京の教会に着いたハビアンは、翌日、落ち着かない足取りで一条高倉の清原邸へと向かった。
 しかし、赴任を告げられたマリアは、驚きとともに戸惑ったような顔を見せた。
「あの……実は、加賀へ下ることになりまらした」
「……え」
 全く予想していなかった答えに、ハビアンは頭が真っ白になった。雪殿が加賀へ? 一体なぜ。
 北国(ほっこく)へマリアが行かねばならない理由が思いつかない。その時、いつぞやマリアが投げかけた言葉がよみがえり、ハビアンはぎくりとした。
—―明日、わたくしが見ず知らずの殿御に家の都合で嫁がされることになったら、ハビアン殿は止めに来て下さいまらするのか。
「雪殿、もしや……どなたかとご婚礼を? 清原のお家の意向で、断れずに——」
「いえ、いえ、そうではござない。お聞きあれ。高山右近様のお声がけでおりゃる。内藤如安(ジョアン)様が関ケ原以来ご浪人でいらしたのを加賀にお招きになり、わたくしはそのついでと言うか……ガラシャ様がはかなくなられて、清原の侍女は家に戻ったと、人づてにお聞きでござったげな。『特に主(あるじ)ものう過ごしているなら、加賀に来てみてはいかがか。手習いの師匠でも、教会(エケレジア)の手伝いでも、することには困らぬ。源氏物語や伊勢物語、和歌の講釈でもすれば、身分ある女房衆は喜んで集まるであろう』と」
「……そういうことでござったか」
 聞こえたキリシタン武将である高山右近は、十六年前の伴天連追放令を受けて大名の地位を捨て、前田利家、次いで利長の家臣となっている。やはりキリシタンで、関ケ原の合戦で主君の小西行長を失った内藤如安を招くのは、そう突飛な話でもない。マリアもきっと歓迎されるだろう。読み書きや詩歌を教えられる教養人は貴重であり、田舎では特にそうだ。
 ガラシャの信心深さはよく知られていた。この夫人の側に篤信のキリシタンが侍女として仕えていることも、それが学者の家の出だということも、右近の耳には入っていたということらしい。
「ハビアン殿はよう思われまらせぬか、このお話」
 マリアが不安げな顔を向けてきた。かのジュスト右近から誘いがあった。悪い話ではないに違いない。それなのに口をついて出たのは、快く背中を押す言葉ではなかった。
「ちっと遠うはござないか、加賀は。五日では着きまらすまい」

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# by stan-nak | 2017-11-19 20:50 | 小説「ハビアン逍遥」(仮) | Comments(0)

ハビアン逍遥(仮)38

「細川越中守様の奥方、ガラシャ様は『こんてむつす・むん地』にいたく感銘を受けられ、繰り返しお読みでござったげな。その真っ初めにはこう書かれてござる。『御主(おんあるじ)のたまはく、我を慕ふ者は闇を行かず、ただ命の光を持つべしと』」
 数日後、ハビアンは長崎の信徒たちを前に説教をしていた。細川忠興の正室、ガラシャは先月一周忌を迎えた。日取りは命日ではなく、雪のサンタ・マリアの祝い日、八月五日が選ばれたという。その篤信と毅然たる最期は、ここの信徒たちにも伝わっていた。
「この『光』とは、自ら手に持って掲ぐる明かりでござろうか。それとも、遠くに見える明かりでござろうか。人には、生きるよりどころが必要でござる。迷うた時、悩んだ時、夜空の一点で動かぬ北辰のような目宛(めあて)がのうてはなりまらせぬ。そう考えれば、この『光』は星のようにずっと遠くにあるのやもしれまらせぬ。それを頼みにすることは、もちろん誤りではござない。しかし、人にはみな知恵が備わり、ものを考えることができまらする。それは草木にも獣にもない、人だけに御主がお与えになったものでござる。その知恵もまた、光じゃと身共は思いまらする。闇の中で一歩、二歩と踏み出す歩みを、右に出せばよいか、左に出せばよいかまで、遠くの光は教えてくれまらしょうか。むしろ足元を照らすのは、おのれが掲ぐる明かりではないかと、思うておりまらする」
 説教を終えて、ハビアンは教会を出た。顔を上げると、秋の高い空が広がっている。
 真っすぐコレジオに帰らず、岬の南側に出る中島川に沿ってしばらく歩く。河口に着くと、砂浜が広がっている。ハビアンは木の枝を拾った。先はすっかり丸まっている。ここに流れ着くまでに水と石に揉まれてこうなるのだ。ハビアンは枝の先で、砂に字を書いた。
   巴 鼻
「烹仏(ほうぶつ)煆祖(かそ)の鉗鎚(けんつい)を秉(と)つて、衲僧(のうそう)向上の巴鼻(はび)を頌出(じゅしゅつ)す」
 何であれ一つの道を極めるなら、師や先人から学ばねばならない。そうでなくてはただの独りよがりだ。しかし、大きな背中を見せてくれる師に頼り切りでもいけない。人には、自力でものを考えるための頭がある。どちらも間違っていない。二つの間で緊張感を保ち、均衡を取り続ける中に、「衲僧向上の巴鼻」はきっとある。
 その姿勢は、何も禅坊主だけに言えることではない。他の宗旨にも、宗門にも、当てはまることなのだ。そうハビアンは思い、足元の字を見下ろした。
 そして、一字を書き足した。
   巴 鼻 庵
 ハビアン。悪くない字面だ。二寸ほどのカニが、「鼻」の字の上を忙しそうに横切っていった。ハビアンは一つ小さくうなずくと、コレジオへ戻る道を歩き始めた。

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# by stan-nak | 2017-10-23 16:41 | 小説「ハビアン逍遥」(仮) | Comments(0)

ハビアン逍遥(仮)37

「あの若様たちが太閤様に拝謁するとき、俺はヴァリニャーノ師の通訳としてついて行った。四人の滞在先には大名や武将たちが入れ代わり立ち代わりやって来た。エウロウパの話を聞こうとしてな。キリシタンもいれば、単なる好奇心の奴もいた。四人はエウロウパの街並みや宮殿がいかに美しく、壮麗だったかを話して聞かせる。日本人は感心して、横にいた俺のことまで尊敬の目で見てくるんだ。目もくらむような、何もかもが光り輝いてる理想の世界からこの男は来たんだ、と思うんだろう。『南蛮国はそんなに優れているのか』と俺に言う。俺はにこにこしながら、『なかなか、その分でござる』と答える。口が裂けても言えなかったよ。『俺の知ってるエウロウパはポルトガルのしけた村だけで、花の都フィレンツェも、アドリア海の女王ヴェネツィアも見たことがない。この坊っちゃまたちがローマ教皇に謁見したのと同じ十五、六の頃、俺はガレオン船の暗がりで、ゲロまみれのネズミを引き裂いて食ってた』なんて」
 ロドリゲスは不意に足を止め、月を見上げた。虫の声を聞くようにじっと黙り、再び歩き出す。
「あのお育ちのいい若様がたには、人智の結晶たる豪華絢爛な美しさがエウロウパの全てだ。無理もない。ヴァリニャーノ師もメスキータ師も、エウロウパの一番いいところしか見せなかったんだから。上澄みの、そのまた上澄みってところだ。……上洛のとき、俺は妙なことに気付いた。若君がたはエウロウパで何を『見た』かは盛んに話すが、何を『聞いた』か、誰と『話した』かは話題に上らないんだ。しかも、メスキータ師とは日本語で話すし、ヴァリニャーノ師とは通訳がいないと話ができない。十代の若さで八年も日本を離れてたんなら、さぞ外国語が上達したろうと思ってたのに、変だなと思った。そのうちに分かってきたよ。若様がたは旅の間、ラテン語もポルトガル語もろくに教わってなかった。外国人と直(じか)に話なんかできるようになってもらっちゃ困るからさ。仮にできたとしても、使節団以外の人間と通訳なしで話すことは禁じられてた。念の入ったことだろ? ヴァリニャーノ師がそうしたらしいんだ。だから、まともに教え始めたのは帰国後だ。別に責めようとは思わない。パードレがたがあのお坊っちゃまがたを愛してたからこそだ。だから、純情な青リンゴのまま汚したくなかったんだろう。ばら色の頬をして、何にでも感動するうぶな十五歳のまま、年を取らせたくなかったんだ」
「そんなものでしょうか」
「少なくとも、俺にはそう見えるね。……だからって、あの二人が嫌いだなんてことはない。特にヴァリニャーノ師には感謝してるつもりだ。汚い上にかわいげもクソもない、ちょっと口が回るだけのスレたガキに、役目を与えてみようとあの人は思ったんだ。そんなこと考える御仁はちょっといない。何だかんだで、奇特だよ」
 涼しい秋風が頬をなでて行く。帰るか、とロドリゲスが言い、教会への道をたどり始めた。
「なぜ私にこんな話をなさったのです」
「うーん」
 歩きながら、ロドリゲスは少しの間何か考えていた。
「エウロウパの会士たちにはなかなか言えなかったからかもしれない。皆さんお育ちがいいもんだから、さっきみたいな話をちょっとしただけで眉をひそめる。かと言って、日本人の信徒にはもっとできないし。ただ俺は、毛並みのいいパードレがたと自分を同類だと思うほどおめでたくはない。俺は日本の能をいいと思うが、エウロウパで似た物を見たことないからかもしれないな。芝居も音楽も、そんなきらびやかなもんに縁なんぞまるでなかったから。……ま、エウロウパの人間にはこういうのもいるって、誰かに言いたかったんだろうな」
 ロドリゲスはハビアンの方を見ることなく、前だけを向いてつぶやいていた。
「ありがとうございます。わざわざ」
「別にいいよ、礼なんて。俺が言いたいことを言っただけなんだから。いや、だからって誰にでもべらべら言うなよ。俺がネズミ食ってた話とかさ」
 慌てたように釘を刺され、ハビアンは噴き出した。
「分かりました。言いません。ツーズ殿より口数は少ないので、大丈夫です」
 ロドリゲスがにやりと笑った。
「なら良かった」
 潮の香りが鼻をくすぐる。人の言うことに一喜一憂していた自分を、二、三歩離れたところから眺められるようになった気がした。

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# by stan-nak | 2017-09-19 00:05 | 小説「ハビアン逍遥」(仮) | Comments(0)