「一輪奏」ご案内 / About

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 当ブログ「一輪奏」(いちりんそう)は、平家物語やその周辺の作品について解説したり突っ込みを入れたり想像を膨らませたりしながら好き勝手に語る、平家ファンのブログです。ちょっとだけ創作もやってます。

 歴史的事実についての記載はできるだけ調べたうえで書いていますが、まだまだ勉強不足の点も多いため、間違っている点もあるかと思います。学術的な調べ物・探し物のお役には立てない可能性が高いですが、その点はどうぞご容赦ください。 Natsu拝

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 旧サイト開設日:2001年10月16日
 当初はジオシティーズでしたが、その後FC2に引っ越し、2013年3月にブログ化しました。

Thank you for visiting my blog.
This blog is about:
-Tale of the Heike (Heike monogatari)
-Tale of Hogen (Hogen monogatari)
-Tale of Heiji (Heiji monogatari)
-Amakusaban Heike monogatari (a colloquial version of Tale of the Heike, published in Amakusa, Japan by Society of Jesus in 1592) and its author, a Jesuit brother Fucan (or Fucansai) Fabian* (1565-1621).

*Also known as Fukan Habian or Fukansai Habian.

Blogger: Natsu
Twitter account: @Heike_gatari
E-mail address: stan-nak[]excite.co.jp (Please replace [] with an at sign. E-mail messages in English are accepted, but simple English would be appreciated.)


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# by stan-nak | 2017-12-31 23:59 | ご案内 | Comments(0)

ハビアン逍遥(仮)16

 その夜、ハビアンはレジデンシアの庭で星空を眺めた。果てもなく深い闇に、宝石のような星々が無数に瞬いている。
 あめ、つち、ほし、そら、やま、かわ、みね、たに。ハビアンは「あめつちの詞」を反芻した。
 日や月と同じく、星も大空を旅している。ひとりでに動いているのではない。お一人の方のお計らいになった完全な秩序の中で天を巡り、規則正しく季節を知らせている。あめ、つち、ほし、そら……。月、日、星の運行こそ、この世界に御作者がおいでになること、それがただお一人であることの証だ。そのことを思うと、12月の都の夜の冷気さえ我が身には無縁かのように心が燃え立った。
「なんだ、お前もいたのか。宵っ張りだなあ」
 不意に、背後から声がした。振り向くと、バレトが濡れ縁から庭に下りてくるところだった。
「パードレこそ」
「ゆうべはせっかく新月だったのに、空が曇ってたからさ」
「パードレも星がお好きでしたね」
 〝Sim〟(うん)と短く言ったきり、バレトはしばらく黙って夜空を眺めていた。
「ゴメス師の講義を思い出すよ。天文学の話をもっと聞きたかった」
 バレトがつぶやいた。準管区長のペドロ・ゴメス神父は、コレジオで天文学を講義していた。ハビアンも天草コレジオで受講した一人だ。だがゴメスはこの年に生涯を閉じている。天下分け目の戦いが起こる前のことだった。
「ええ。天寿とはいえ、残念です」
「敬愛される人に限って早く旅立ってしまう。……パウロも、ドン・アゴスチノも」
「そうでしょうか」
「違うかな」
「……いえ。もしかしたら……」
 バレトの言うことを、考えすぎだと片付けてしまうのは悪い気がした。
「……失ってから、敬愛していたと気付くのかもしれませんね」
 横で空を見上げていた顔がこちらを向いたのが分かったが、あえてそちらは見ずにいた。どんな顔をしていようが、夜陰の中では見えないのだが。
少しの間、バレトは黙っていた。
「確かに……あ、流れ星」
「え。どこですか」
「あの辺」
 そう言ってバレトが指差した先をハビアンは思わず目で追った。バレトが笑う。
「もう消えたよ」
「そうですね」
 考えるまでもないことだ。ハビアンも苦笑いした。

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# by stan-nak | 2017-05-23 23:01 | 小説「ハビアン逍遥」(仮) | Comments(0)

ハビアン逍遥(仮)15

「まことでござるの。気付きまらせなんだ」
「もしかしたら……雪月花や花鳥風月は誰が見ても美しゅうて、始終愛でられておりまらしょうず。この歌をお作りあったお方は、そうではないもの、風流とはされぬものに目を向けるお人だったのではござないか。そうならよいと思うていまらする。わたくしもそのような目を大切にしたいほどに」
 そうだ、とハビアンは思った。マリアと話すと、世界が昨日よりも一段光を増し、一段色鮮やかになると感じられるときがある。だから、ハビアンの心の中にはいつもこの人のための部屋がある。
「まことに……その通りと存じまらする。雪殿に手習いを教わる童は、仕合せがようござるの」
「いえ、そのような。わたくしはただ、何かすることがあれば良いと思うて……あとは、お代も頂けまらするほどに」
「え? ――ああ、さようでござるの」
 ハビアンが驚いた声を出し、マリアがきょとんとした。
「何か気になって?」
「いえ……ただ、あなたが銭の話をなさるのが慮外でござった」
「あら、大事なことではおりないか。実家とは言うても、縁づきもせず子もなしておらぬ者は肩身が狭うて。少しでもお足を稼いでいれば、この家にいてよいと思えまらしょうず」
「そのようなことは、お気になさらずとも。雪殿が今までお一人でおいでなのは、細川の奥方をお支えしていたためでござろうず」
 ハビアンは当然のことを言ったつもりだった。だが、マリアが答えるまでには少しの間があった。
「……ええ。さりながら、やはりどこかへ片付くのが習いでおりゃるほどに」
 話が途切れた。マリアが庭に目をやった。雀が一羽来ている。食べる物でもあるのか、何かしきりについばみながら忙しそうに飛び跳ねている。
「昨日、ハビアン殿が雪と呼んで下さって、うれしゅうおりゃった」
「……あなたが文にそうお書きになっていたほどに」
「思い出せるようにと書きまらしたのじゃ。お忘れになっているのではと思うて」
「これは、おしゃりまらするのう。忘れたりいたしまらせぬぞ」
 戯れでおりゃる。そう言って、マリアは楽しそうに笑った。この人の笑い声を久しぶりに聞いたように、ハビアンは思った。

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# by stan-nak | 2017-05-21 21:00 | 小説「ハビアン逍遥」(仮) | Comments(0)

ハビアン逍遥(仮)14

 清原邸に着くと、マリアは不在だった。近在の娘に手習いを教えに行っていると、白髪交じりの侍女が教えてくれた。そういえば、昨日もマリアは外から帰って来た様子だった。その手に風呂敷包みがあったのをハビアンは思い出した。
 それでもハビアンが自由に文庫に入れるよう言い置いてあったようで、ハビアンは使えそうな資料探しにすぐに取り掛かれた。とはいえ蔵書は山のようにあり、作業は簡単ではない。
 何とか一段落したころ、聞き慣れた声がした。
「ハビアン殿、お仕事は進みまらしたか」
「雪殿。何とか……先は長う思われまらするが」
「ご謙遜を。ハビアン殿ならすぐでござろうず。――出先でお菓子を頂きまらしたほどに、一休みいたしまらせぬか」
「かたじけない。呼ばれまらしょうず」
 昨日と同じ部屋で、ハビアンは茶菓にあずかった。床の間の山茶花が開いているか、気になって視線を注ぐ。昨日よりはつぼみが膨らんでいるようだった。
「手習いを教えておいでとか」
「ええ、近くの商家から頼まれまらした。何もせぬよりよいと思うて、引き受けていまらする」
 マリアが静かに言った。確かにそうなのだろう。することがあれば気が紛れるし、あれこれ思い詰めずに済む。
「いろはからでござるか」
「ええ。それから『あめつちの詞(ことば)』も。本当はこちらの方が好きじゃほどに」
「――と言うと……あめ(天)、つち(地)、ほし(星)、そら(空)という?」
「なかなか。やま(山)、かは(川)、みね(峰)、たに(谷)」
 マリアが続ける。それを聞くと、ハビアンも続きを思い出した。
「くも(雲)、きり(霧)、むろ(室)、こけ(苔)」
「ひと(人)、いぬ(犬)、うへ(上)、すゑ(末)」
「ゆわ(硫黄)、さる(猿)、お(生)ふせよ、え(榎)のえ(枝)をなれゐて」
 最後は二つの声が自然に重なった。「あめつちの詞」は、いろは歌同様に全ての仮名を一字ずつ使った手習い歌だった。
「天、地、星、空という始まりがげに広大で、美しいと思われまらせぬか。山、川と続くのも、世にある御作(ごさく)の物を一つ一つ指差しては目録を作っているみたい。御主(おんあるじ)のお作りになった物はどれもこれも、こんなに美しいと……この歌ができた時分にはキリシタンのキの字もござなかったに、この作者は天地(あめつち)を作られたのがお一人の主だと分かっていたような気がいたしまらする」
「なるほど。そのように考えたことはござなかった」
「でも、一つ不思議なことがおりゃる。こんなにいくつも物の名を挙げているのに、雪月花や花鳥風月は入っておりまらせぬ。風流を好む人なら真っ先に思い浮かぶはずじゃに」
 そう言われて、ハビアンは頭の中で「あめつちの詞」をさらってみた。雪、月、花、鳥、風。確かに、一つも入っていない。

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# by stan-nak | 2017-02-26 17:13 | 小説「ハビアン逍遥」(仮) | Comments(0)

ハビアン逍遥(仮)13

「久しぶりだな、ハビアン。ようこそござったれ」
 上京のレジデンシアで出迎えたのは、マノエル・バレトだった。ハビアンより1歳年上のこのポルトガル人神父は、数カ月前にこの地に赴任している。
「ドナ・マリアが細川屋敷から実家に戻っていると聞いてはいたんだが、こちらも忙しくてね。告解を聴いていたらあっという間に日が過ぎてしまう。……ドン・アゴスチノの葬儀もあったし。知らせてやれず、すまなかった」
 そう言って、バレトは小さく肩を落とした。1カ月ほど前の11月6日、小西行長は京都の六条河原で処刑されている。アゴスチノの洗礼名を持つキリシタン大名だった。イエズス会にとっては小さくない損失である。
「お疲れのようですね」
「わかる?」
「元気な時は背筋が伸びておいでなのに、今日は猫背です」
「参ったな」
 バレトが苦笑いした。
「でも、悪いことばかりじゃないよ。徳川様は太閤様みたいな禁教の方針は取らないだろうって、ほかのパードレたちも言ってる。僕たちは最悪の時は脱したんじゃないか?」
「そう……であってほしいですね」
「きっとそうだって。だから、状況は良くなる。ハビアンもまた本を書くし。――あれ、取り掛かれそうなのか?」
「ええ。私のやり方で、やってみようと思っています」
 やや間を置いて、バレトがうなずいた。
「お前ならきっと、いいものができるよ。平家のときみたいに」
 8年前の1592年、ハビアンは平家物語を世話に、つまり口語に和らげた。外国人のパードレやイルマンが、古い文語体ではない今の日本語を学ぶための教科書だった。実際、口語に訳した平家は彼らの日本語習得に少なからず貢献したし、そのことは日本人イルマンの中でハビアンが一定の敬意を払われている理由の一つになっていた。
 ハビアンの平家はしかし、物語を染め上げている濃い仏教色をかなり薄めつつも、完全には排除していなかった。日本語教本として評価されている平家の和らげが、自身のヒイデスに対する評価にはむしろ影を落としている可能性を、ハビアンは考えていた。
 バレトのように、ハビアンの心中を分かってくれている外国人パードレがいないわけではない。だが、それが多数派だと思うほどハビアンは楽天家ではなかった。
――今度書く本によって、自分の歩く道は変わるのだろうか。
 床を延べて横になり、天井を見上げてハビアンは考えた。冬の都の冷気を感じ、足をこすり合わせた。

「ハビアン、ちょっといいか」
 翌日、清原邸に出かけようと準備をしているハビアンに、バレトが声を掛けた。何ですか、と尋ねたハビアンの隣にあぐらをかくと、バレトは声を落として切り出した。
「お前が真面目なのはみんな知ってるし、今まで何もなかったんだから、今さらとは思うんだけど」
「……だから、何ですか」
 ハビアンには話が見えない。
「いや、こういうことは周囲が思いもしない事態になったりするし……むしろ真面目な奴に限ってそういう展開になることがあるから」
 不自然なほどの前置きの長さに、ハビアンはいら立ってきた。
「あの、パードレ。何の話かおっしゃらないなら、もう出ますよ」
「ちょっと待てって。……お前さ、ドナ・マリアが今でも独り身だからって、変なこと考えてないよな」
 ハビアンはあ然とした。バレトからはきっと、目が点になって見えたに違いなかった。
「お話とは、そんなことですか」
 思わず口にした返事には、呆れた調子が露骨に出てしまった。
「心配して言ってるんじゃないか。つまるところは男と女なんだから、何があるか分からないだろ」
「……あの方は由緒ある公家の息女です。国王の後宮に出仕したこともある方ですよ。私のような庶民の出とは血統が違います」
 マリアと結ばれる想像を一度もしたことがないと言ったら嘘になる。だが、その度にハビアンは思った。自分がマリアと会えるのは、イエズスのコンパニアのイルマンという立場だからだ。そうでなければ、顔を見ることもかなわないはずの相手なのだ。
「へーえ。じゃ、身分のことさえなきゃ相思相愛ってわけか」
「先ほどパードレがおっしゃった通りです。私があの方と知り合ったのは1586年の大坂でした。もしどうかなると言うなら、その時とっくにそうなっているでしょう」
 バレトは無言のまま、目だけが驚いたように見えた。さらに何か言われそうな気もしたが、ハビアンはそそくさとレジデンシアを後にした。
 そういうわけで、ハビアンが出かけた後のバレトの言葉は、本人の耳に入ることはなかった。
「『1586年の大坂』ねえ。忘れ得ぬ年か」

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# by stan-nak | 2017-02-26 17:09 | 小説「ハビアン逍遥」(仮) | Comments(0)