「一輪奏」ご案内 / About

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 当ブログ「一輪奏」(いちりんそう)は、平家物語やその周辺の作品について解説したり突っ込みを入れたり想像を膨らませたりしながら好き勝手に語る、平家ファンのブログです。ちょっとだけ創作もやってます。

 歴史的事実についての記載はできるだけ調べたうえで書いていますが、まだまだ勉強不足の点も多いため、間違っている点もあるかと思います。学術的な調べ物・探し物のお役には立てない可能性が高いですが、その点はどうぞご容赦ください。 Natsu拝

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 旧サイト開設日:2001年10月16日
 当初はジオシティーズでしたが、その後FC2に引っ越し、2013年3月にブログ化しました。

Thank you for visiting my blog.
This blog is about:
-Tale of the Heike (Heike monogatari)
-Tale of Hogen (Hogen monogatari)
-Tale of Heiji (Heiji monogatari)
-Amakusaban Heike monogatari (a colloquial version of Tale of the Heike, published in Amakusa, Japan by Society of Jesus in 1592) and its author, a Jesuit brother Fucan (or Fucansai) Fabian* (1565-1621).

*Also known as Fukan Habian or Fukansai Habian.

Blogger: Natsu
Twitter account: @Heike_gatari
E-mail address: stan-nak[]excite.co.jp (Please replace [] with an at sign. E-mail messages in English are accepted, but simple English would be appreciated.)


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# by stan-nak | 2017-12-31 23:59 | ご案内 | Comments(0)

ハビアン逍遥(仮)37

「あの四人が太閤様に拝謁するとき、俺はヴァリニャーノ師の通訳としてついて行った。四人の滞在先には大名や武将たちが入れ代わり立ち代わりやって来た。エウロウパの話を聞こうとしてな。キリシタンもいれば、単なる好奇心の奴もいた。四人はエウロウパの街並みや宮殿がいかに美しく、壮麗だったかを話して聞かせる。日本人は感心して、横にいた俺のことまで尊敬の目で見てくるんだ。そんなに素晴らしい、この世とは思えない世界からこの男は来たんだ、と思うんだろう。『南蛮国はそんなに優れているのか』と俺に言う。俺はにこにこしながら、『なかなか、その分でござる』と答える。口が裂けても言えなかったよ。『俺の知ってるエウロウパはポルトガルのしけた村だけで、花の都フィレンツェも、アドリア海の女王ヴェネツィアも見たことがない。この坊っちゃまたちがローマ教皇に謁見したのと同じ十五、六の頃、俺はガレオン船の暗がりでゲロまみれのネズミを捕まえて食ってた』なんて」
 ロドリゲスは不意に足を止め、月を見上げた。虫の声を聞くようにじっと黙り、再び歩き出す。
「あのお育ちのいい若様がたには、人智の結晶たる豪華絢爛な美しさがエウロウパの全てだ。無理もない。ヴァリニャーノ師もメスキータ師も、エウロウパの一番いいところしか見せなかったんだから。上澄みの、そのまた上澄みってところだ。それ以外は見せず聞かせず、ポルトガル語もラテン語もろくに教えなかった。外国人と直に話なんかできるようになってもらっちゃ困るからな。別に責めようとは思わない。パードレがたがあのお坊っちゃまがたを愛してたからこそだ。だから、純情な青リンゴのまま汚したくなかったんだろう。ばら色の頬をして、何にでも感動するうぶな十五歳のまま、年を取らせたくなかったんだ」
「そんなものでしょうか」
「少なくとも、俺にはそう見えるね。……だからって、あの二人が嫌いだなんてことはない。特にヴァリニャーノ師には感謝してるつもりだ。汚い上にかわいげもクソもない、ちょっと口が回るだけのスレたガキに、役目を与えてみようとあの人は思ったんだ。そんなこと考える御仁はちょっといない。何だかんだで、奇特だよ」
 涼しい秋風が頬をなでて行く。帰るか、とロドリゲスが言い、教会への道をたどり始めた。
「なぜ私にこんな話をなさったのです」
「うーん」
 歩きながら、ロドリゲスは少しの間何か考えていた。
「エウロウパの会士たちにはなかなか言えなかったからかもしれない。皆さんお育ちがいいもんだから、さっきみたいな話をちょっとしただけで眉をひそめる。かと言って、日本人の信徒にはもっとできないし。ただ俺は、毛並みのいいパードレがたと自分がまったく同類だとは思えないときがある。……ま、エウロウパの人間にはこういうのもいるって、誰かに言いたかったんだろうな」
 ロドリゲスはハビアンの方を見ることなく、前だけを向いてつぶやいていた。
「ありがとうございます。わざわざ」
「別にいいよ、礼なんて。俺が言いたいことを言っただけなんだから。いや、だからって誰にでもべらべら言うなよ。俺がネズミ食ってた話とかさ」
 慌てたように釘を刺され、ハビアンは噴き出した。
「分かりました。言いません。ツーズ殿より口数は少ないので、大丈夫です」
 ロドリゲスがにやりと笑った。
「なら良かった」
 潮の香りが鼻をくすぐる。人の言うことに一喜一憂していた自分を、二、三歩離れたところから眺められるようになった気がした。

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# by stan-nak | 2017-09-19 00:05 | 小説「ハビアン逍遥」(仮) | Comments(0)

ハビアン逍遥(仮)36

「俺、ど田舎の生まれなの。ポルトガルの北の方にあるセルナンセリェってとこ。親が早死にしたんで親類の家に引き取られたんだが、そこのせがれどもはみんな年上で、体もでかいし、俺は家畜か、よくて使いっ走りだった。朝から晩まで野良仕事、寝るのは家畜小屋。ガキどもの機嫌が悪けりゃ殴られる。死ぬまでぼろ切れ扱いかと思ったら、何の希望も持てなくてな。家じゅうのパンを失敬して逃げた。南へ下ってコインブラ、リスボア。そしてインド行きの船に乗った。船が難破したって、片田舎の家畜小屋でくたばるよりマシだ。よれよれのガキ一人乗り込むくらい、誰も目に留めない。ネズミと大差ないのさ」
 何と言えばいいのか、ハビアンは分からなかった。自分の子ども時代も決して楽ではなかったが、この神父の経験はそれ以上だ。
「ところが船の中で、最後に残ってたパンを大人に全部取られちまった。腹が減って仕方がないから、甲板でうとうとしてた神父の革靴を盗もうとした。煮りゃ食えるかと思ってさ。ところがその神父、寝てなかったんだよ。脱がせるときに気付かれて捕まった。不思議そうな顔で、『その靴はお前には大きすぎる』って言うんだ。靴を食う奴がいると知って、その御仁は天を仰いでた。『足に履いてたってネズミにかじられるんだから、俺が食ったって一緒じゃないか』って屁理屈こねたら、『司祭といれば大人は手出ししてこない。ネズミを退治してくれるなら一緒にいていいし、食い物も分けてやる。だから靴は取るな』って言われた。感動したね。誰かに優しくされたのは初めてだった。こんなに親切な人がいるんだなと思って、うれしかった。うれしさ余って、まず尋ねたことが何だと思う? 『ネズミを捕ったら食っていいか』だぞ。そのときの神父の目ったらなかったね。腐った死体の肉にたかってるハエでも見るような目だった。それがパードレ・ヴァリニャーノだった」
 観能の帰りなのか、家路を歩む町人の姿がある。満月の夜だから明かりはいらない。長く月夜を楽しもうと、のんびりと歩く者が多かった。
「言葉が二つも三つもできる奴が重宝されてるって気付いたのは、船が着いたインドでのことだ。ここで通訳になればいいんじゃないかと思ったんだが、そしたらヴァリニャーノ師に、なら日本までついて来いって言われた。そこの言葉は飛び抜けて難しく、自分もできない。お前は若いから習得できるだろうって」
 南蛮人と日本人の二人連れを、ちらちらと見る者もある。だが、ポルトガル語で話している中身までは分からない。

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# by stan-nak | 2017-09-18 23:55 | 小説「ハビアン逍遥」(仮) | Comments(0)

ハビアン逍遥(仮)35

「お前、ずっと前にメスキータ師に談判しに来たことがあったけどさ。あのあと、部屋を出てから立ち聞きしてただろ」
 ハビアンはぎくりとした。何のことですか、と即座にとぼけることはできなかった。我ながら嘘が下手だとあらためて思った。
「……」
「どこまで聞いた」
「……私をおだてておけと、メスキータ師がおっしゃったところまでです」
「最後までじゃないか」
「すみません」
「足音がすぐ止まったから、そうかなと思ったら図星か。お前も悪知恵のない奴だな。俺なら足音だけはさせるとか、もうちょっと頭使うぞ。遠ざかって行くと思うように、少しずつ足踏みを小さくするんだ」
「はあ」
 そんなことを自慢げに言われても、どんな反応をしろと言うのだろうか。だが、ふとハビアンは思った。
「メスキータ師も気づいておいででしたか」
「気づいてりゃあんな話しないだろ」
「もしかして、耳が遠く……?」
「まさか。お前に興味がないだけだ」
「……そうですか」
 影ができるほど明るい月の光が、闇の中で家々の輪郭を浮かび上がらせている。
「別に結構ですよ、わざわざ私をおだてて下さらなくても」
「そんな趣味はない。俺は口数は多いが、おべんちゃらは言わない。あの話な、叙階は大事な問題だ。司祭は秘跡を授けるんだから、日本人だからって叙階の基準を変えたり、緩めたりするべきじゃないと俺は思う。だがメスキータ師がまったく公平かは疑問だな。四人の使節――今は三人か――のこととなると盲目的だ」
「師が使節がたを愛されるのは無理からぬことです。八年の旅の間、引率していたのはあの方なのでしょう? 親同然の気持ちになってもおかしくありません」
 ふっ、とロドリゲスが笑うのが聞こえた。鼻で笑った音だった。
「何と言うかまあ、そこが問題でもあるんだな」
「どういうことです」
「お前、ジュリアン坊やに妙なことを言われたって言ってたけどな、使節の言うことは真に受けないほうがいいぞ。ありゃとんだ世間知らずのお子様たちだ」
「は?」
「別にあいつらの落ち度じゃない。そうしたのは大人たちなんだ。十(とお)かそこらでセミナリオに入れられてから今まで、エウロウパ派遣中はもちろん帰国してからも、大人たちにがっちり守られて育ったばっかりに、良くも悪くもごく限られた世界しか知らない。あったかい親鳥の翼の下でいまだに守られてる雛鳥ってとこだ」
「あの、ツーズ殿。すみません、もう少しゆっくり話してくださいますか」
「……ああ、悪い。俺のポルトガル語は田舎じみてるらしくてな。品がないとよく言われる。母国(くに)で大学やなんかは出てないもんでね。日本語の方はそんな風に言われたことはないんだが」
 少し歩いては、ロドリゲスは角を曲がった。だが、特に行き先がある歩き方ではなかった。
「全く……ローマだのヴェネツィアだの、俺だって行ったことないよ。イスパニアすら行ったことないってのに」
 ロドリゲスの声はため息まじりだった。
「そうなのですか」

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# by stan-nak | 2017-09-18 23:53 | 小説「ハビアン逍遥」(仮) | Comments(0)

ハビアン逍遥(仮)34

 ハビアンの答えに、女も上機嫌になった。
「こなたは真面目そうな坊様じゃ。南蛮宗門のことはよう知らぬが」
「……よう言われまらするが、別に身共はそう真面目でもござない。人付き合いで腹を立てることもござるし、妬むこともござるし」
「ほう、坊様でもそうかえ。娑婆(しゃば)じゃのう」
「は?」
 知らない言葉ではないはずなのに、ハビアンは反射的に聞き返した。聞き返されて、今度は女の方が目をぱちくりさせている。
「おや、これは失礼。坊様に無礼なことを」
 謝りかけた女を、ハビアンがさえぎった。
「いえ、そういうことではござない。……まことに……」
 ハビアンは、ひとつ息を吐いた。
「娑婆じゃのう、と思いまらする。身共も」

 翌日の晩、ハビアンは修道服から小袖袴に着替え、能を見に出かけた。
「月もはや、出塩(でじお)になりて塩竈(しおがま)の、浦さび渡る、気色かな。……今宵ぞ秋の最中(もなか)なる、げにやうつせば塩竈の、月も都の最中かな」
 最も良い席をしつらえられているのは長崎奉行の寺沢広高だが、武士以外に一般の民衆も見物に集まっている。日中の澄んだ空は日が沈んでも曇らず、舞台も客も満月の青白い光に照らされている。
「身をばげに、忘れたり秋の夜の、長物語よしなや、先づいざや塩を汲まむとて、持つや田子の浦、東(あづま)からげの塩衣……」
 身をばげに、忘れたり。
 自分のことを言われているようにハビアンは思った。おのれの仕事は御主(おんあるじ)に仕えること、そのお心にかなうよう生きること、そして一人一人の信徒に向き合うことではなかったか。少なくとも、昇進できるかどうかで頭をいっぱいにすることではないはずだ。本分を忘れかけていた、とハビアンは気が付いた。
 この一座にたまたま行き合ったのも、御主の導きかもしれない。『融』を見終えてそう思い、立ち上がったとき、ハビアンは月明かりを浴びる見物人の中の一人に目を留めた。周囲より体が大きい。数歩近付いてみると、見知った顔である。
「……ツーズ殿?」
 ハビアンの小声に、男の顔がこちらを向いた。通辞ジョアン・ロドリゲスだった。ロドリゲスも立ち上がる。修道服ではなかった。
「お前、その格好」
「ツーズ殿も」
「……考えることは同じか」
「能、お好きなのですか」
 〝Sim〟(うん)とロドリゲスが答えた。
「言葉が少し難しいけど、いいもんだ。ほかのパードレがたは日本人の歌を聞くのが苦痛らしいが」
――適当におだてておいてくれ。
 ハビアンの耳が間違っていなければ、いつぞやメスキータはロドリゲスにそう言っていた。しかし考えてみると、あれ以来、ロドリゲスはハビアンに対してそれらしいことは何も言ってきていなかった。
 ロドリゲスは少しの間黙っていたが、口を開いた。
「少し歩くか。夜の散歩も悪くない」
「散歩?」
「いいから」
 ハビアンの諾否を聞かず、ロドリゲスは歩き出した。仕方なく、ハビアンもついて行く。ロドリゲスは岬の教会に真っすぐ戻るわけでもなく、ぶらぶらと歩いていた。

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# by stan-nak | 2017-09-18 23:48 | 小説「ハビアン逍遥」(仮) | Comments(0)