「一輪奏」ご案内 / About

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 当ブログ「一輪奏」(いちりんそう)は、平家物語やその周辺の作品について解説したり突っ込みを入れたり想像を膨らませたりしながら好き勝手に語る、平家ファンのブログです。ちょっとだけ創作もやってます。

 歴史的事実についての記載はできるだけ調べたうえで書いていますが、まだまだ勉強不足の点も多いため、間違っている点もあるかと思います。学術的な調べ物・探し物のお役には立てない可能性が高いですが、その点はどうぞご容赦ください。 Natsu拝

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 旧サイト開設日:2001年10月16日
 当初はジオシティーズでしたが、その後FC2に引っ越し、2013年3月にブログ化しました。

Thank you for visiting my blog.
This blog is about:
-Tale of the Heike (Heike monogatari)
-Tale of Hogen (Hogen monogatari)
-Tale of Heiji (Heiji monogatari)
-Amakusaban Heike monogatari (a colloquial version of Tale of the Heike, published in Amakusa, Japan by Society of Jesus in 1592) and its author, a Jesuit brother Fucan (or Fucansai) Fabian* (1565-1621).

*Also known as Fukan Habian or Fukansai Habian.

Blogger: Natsu
Twitter account: @Heike_gatari
E-mail address: stan-nak[]excite.co.jp (Please replace [] with an at sign. E-mail messages in English are accepted, but simple English would be appreciated.)


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# by stan-nak | 2017-12-31 23:59 | ご案内 | Comments(0)

ハビアン逍遥(仮)14

 清原邸に着くと、マリアは不在だった。近在の娘に手習いを教えに行っていると、白髪交じりの侍女が教えてくれた。そういえば、昨日もマリアは外から帰って来た様子だった。その手に風呂敷包みがあったのをハビアンは思い出した。
 それでもハビアンが自由に文庫に入れるよう言い置いてあったようで、ハビアンは使えそうな資料探しにすぐに取り掛かれた。とはいえ蔵書は山のようにあり、作業は簡単ではない。
 何とか一段落したころ、聞き慣れた声がした。
「ハビアン殿、お仕事は進みまらしたか」
「雪殿。何とか……先は長う思われまらするが」
「ご謙遜を。ハビアン殿ならすぐでござろうず。――出先でお菓子を頂きまらしたほどに、一休みいたしまらせぬか」
「かたじけない。呼ばれまらしょうず」
 昨日と同じ部屋で、ハビアンは茶菓にあずかった。床の間の山茶花が開いているか、気になって視線を注ぐ。昨日よりはつぼみが膨らんでいるようだった。
「手習いを教えておいでとか」
「ええ、近くの商家から頼まれまらした。何もせぬよりよいと思うて、引き受けていまらする」
 マリアが静かに言った。確かにそうなのだろう。することがあれば気が紛れるし、あれこれ思い詰めずに済む。
「いろはからでござるか」
「ええ。それから『あめつちの詞(ことば)』も。本当はこちらの方が好きじゃほどに」
「――と言うと……あめ(天)、つち(地)、ほし(星)、そら(空)という?」
「なかなか。やま(山)、かは(川)、みね(峰)、たに(谷)」
 マリアが続ける。それを聞くと、ハビアンも続きを思い出した。
「くも(雲)、きり(霧)、むろ(室)、こけ(苔)」
「ひと(人)、いぬ(犬)、うへ(上)、すゑ(末)」
「ゆわ(硫黄)、さる(猿)、お(生)ふせよ、え(榎)のえ(枝)をなれゐて」
 最後は二つの声が自然に重なった。「あめつちの詞」は、いろは歌同様に全ての仮名を一字ずつ使った手習い歌だった。
「天、地、星、空という始まりがげに広大で、美しいと思われまらせぬか。山、川と続くのも、世にある御作(ごさく)の物を一つ一つ指差しては目録を作っているみたい。御主(おんあるじ)のお作りになった物はどれもこれも、こんなに美しいと……この歌ができた時分にはキリシタンのキの字もござなかったに、この作者は天地(あめつち)を作られたのがお一人の主だと分かっていたような気がいたしまらする」
「なるほど。そのように考えたことはござなかった」
「でも、一つ不思議なことがおりゃる。こんなにいくつも物の名を挙げているのに、雪月花や花鳥風月は入っておりまらせぬ。風流を好む人なら真っ先に思い浮かぶはずじゃに」
 そう言われて、ハビアンは頭の中で「あめつちの詞」をさらってみた。雪、月、花、鳥、風。確かに、一つも入っていない。

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# by stan-nak | 2017-02-26 17:13 | 小説「ハビアン逍遥」(仮) | Comments(0)

ハビアン逍遥(仮)13

「久しぶりだな、ハビアン。ようこそござったれ」
 上京のレジデンシアで出迎えたのは、マノエル・バレトだった。ハビアンより1歳年上のこのポルトガル人神父は、数カ月前にこの地に赴任している。
「ドナ・マリアが細川屋敷から実家に戻っていると聞いてはいたんだが、こちらも忙しくてね。告解を聴いていたらあっという間に日が過ぎてしまう。……ドン・アゴスチノの葬儀もあったし。知らせてやれず、すまなかった」
 そう言って、バレトは小さく肩を落とした。1カ月ほど前の11月6日、小西行長は京都の六条河原で処刑されている。アゴスチノの洗礼名を持つキリシタン大名だった。イエズス会にとっては小さくない損失である。
「お疲れのようですね」
「わかる?」
「元気な時は背筋が伸びておいでなのに、今日は猫背です」
「参ったな」
 バレトが苦笑いした。
「でも、悪いことばかりじゃないよ。徳川様は太閤様みたいな禁教の方針は取らないだろうって、ほかのパードレたちも言ってる。僕たちは最悪の時は脱したんじゃないか?」
「そう……であってほしいですね」
「きっとそうだって。だから、状況は良くなる。ハビアンもまた本を書くし。――あれ、取り掛かれそうなのか?」
「ええ。私のやり方で、やってみようと思っています」
 やや間を置いて、バレトがうなずいた。
「お前ならきっと、いいものができるよ。平家のときみたいに」
 8年前の1592年、ハビアンは平家物語を世話に、つまり口語に和らげた。外国人のパードレやイルマンが、古い文語体ではない今の日本語を学ぶための教科書だった。実際、口語に訳した平家は彼らの日本語習得に少なからず貢献したし、そのことは日本人イルマンの中でハビアンが一定の敬意を払われている理由の一つになっていた。
 ハビアンの平家はしかし、物語を染め上げている濃い仏教色をかなり薄めつつも、完全には排除していなかった。日本語教本として評価されている平家の和らげが、自身のヒイデスに対する評価にはむしろ影を落としている可能性を、ハビアンは考えていた。
 バレトのように、ハビアンの心中を分かってくれている外国人パードレがいないわけではない。だが、それが多数派だと思うほどハビアンは楽天家ではなかった。
――今度書く本によって、自分の歩く道は変わるのだろうか。
 床を延べて横になり、天井を見上げてハビアンは考えた。冬の都の冷気を感じ、足をこすり合わせた。

「ハビアン、ちょっといいか」
 翌日、清原邸に出かけようと準備をしているハビアンに、バレトが声を掛けた。何ですか、と尋ねたハビアンの隣にあぐらをかくと、バレトは声を落として切り出した。
「お前が真面目なのはみんな知ってるし、今まで何もなかったんだから、今さらとは思うんだけど」
「……だから、何ですか」
 ハビアンには話が見えない。
「いや、こういうことは周囲が思いもしない事態になったりするし……むしろ真面目な奴に限ってそういう展開になることがあるから」
 不自然なほどの前置きの長さに、ハビアンはいら立ってきた。
「あの、パードレ。何の話かおっしゃらないなら、もう出ますよ」
「ちょっと待てって。……お前さ、ドナ・マリアが今でも独り身だからって、変なこと考えてないよな」
 ハビアンはあ然とした。バレトからはきっと、目が点になって見えたに違いなかった。
「お話とは、そんなことですか」
 思わず口にした返事には、呆れた調子が露骨に出てしまった。
「心配して言ってるんじゃないか。つまるところは男と女なんだから、何があるか分からないだろ」
「……あの方は由緒ある公家の息女です。国王の後宮に出仕したこともある方ですよ。私のような庶民の出とは血統が違います」
 マリアと結ばれる想像を一度もしたことがないと言ったら嘘になる。だが、その度にハビアンは思った。自分がマリアと会えるのは、イエズスのコンパニアのイルマンという立場だからだ。そうでなければ、顔を見ることもかなわないはずの相手なのだ。
「へーえ。じゃ、身分のことさえなきゃ相思相愛ってわけか」
「先ほどパードレがおっしゃった通りです。私があの方と知り合ったのは1586年の大坂でした。もしどうかなると言うなら、その時とっくにそうなっているでしょう」
 バレトは無言のまま、目だけが驚いたように見えた。さらに何か言われそうな気もしたが、ハビアンはそそくさとレジデンシアを後にした。
 そういうわけで、ハビアンが出かけた後のバレトの言葉は、本人の耳に入ることはなかった。
「『1586年の大坂』ねえ。忘れ得ぬ年か」

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# by stan-nak | 2017-02-26 17:09 | 小説「ハビアン逍遥」(仮) | Comments(0)

ハビアン逍遥(仮)12

「あら、秀賢(ひでかた)。お帰りなされ」
「ただ今戻りまらした。こちらは……お客人でござるか」
 マリアが親しげに笑みを向けた若者が、ハビアンを見た。
「こちらはイルマンの不干ハビアン殿とおしゃるお方じゃ。ハビアン殿、これはわたくしが甥で秀賢と申しまらする」
「清原国賢(くにかた)が子、秀賢でござる。ようこそござったれ」
 秀賢が一礼し、ハビアンも頭を下げた。
「ご丁寧に、恐縮でござる。コンパニアの――寺から命じられた仕事のため、こちらの御文庫を使わせていただくことになりまらしたほどに、ご挨拶に伺いまらした。これから何度か出入りするかと存じまらする。お目障りやも」
「……いえ、別段差し支えござないが」
「秀賢、ハビアン殿は長崎の南蛮寺からわざわざ上洛(しょうらく)なさったのじゃ。今は都にご逗留を?」
「はい、近くにパードレの住む館がござるほどに、そこに泊まりまらする。明日の日中、また参りまらしょうず」
 そう言ってハビアンは立ち上がった。外はもう日が傾き始めていた。
「不干殿、門までお送りいたしまらする。冷えまらするほどに、姉上はどうぞ中に」
 ありがとう、とマリアが笑顔を見せ、ハビアンにも一礼した。
「どうも南蛮の言葉は分かりかねまらする。エルマンとは、伴天連とはまた別でござるか」
 廊下を歩きながら、秀賢が尋ねた。
「バテレンは、イルマンの中から選ばれた者が任じられまらする」
「僧正と僧都のようなものでござろうか」
「まあ、大過はござない」
 さようでござるか、と言ったきり、秀賢は黙った。門口でハビアンが挨拶しようとした矢先、再び口を開いた。
「失礼ながら、叔母とは昔からの知音(ちいん)か何かでござろうか」
 夕暮れの弱い光の中で、秀賢の眉が一直線を描いていた。声の調子は雑談のそれではなかった。問い詰められているように感じた。
「ええ……まあ。身共が大坂のセミナリオにいた時分に知り合いまらしたほどに、十四、五年ほど前でござるが」
 マリアが肥後天草のコレジオまではるばる訪ねてきたこともあるが、それはひとまず伏せておいた。
「ああ……それで」
 そう言うと秀賢はハビアンから視線を外し、少し考え込んだように見えた。
「どうかなされまらしたか」
「いえ、何も……相済みまらせぬ。不躾(ぶしつけ)なことをお伺いいたしまらした。どうぞお気を付けてお帰りあれ」
 ハビアンが怪訝な顔になっていたのか、秀賢はごまかすように努めて明るい声を出した。秀賢が何を言おうとしたのか気になったが、強いて聞き出せる雰囲気でもなく、ハビアンは手短に挨拶をして帰路についた。修道服の下に冬の寒さが入り込んでいた。

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# by stan-nak | 2017-02-26 16:57 | 小説「ハビアン逍遥」(仮) | Comments(0)

ハビアン逍遥(仮)11

「わたくし、お尋ねいたいてござる。生きるのが面白うなったのなら、なぜお命をお捨てになれるのかと。そうしたら、殿がわたくしを武家の妻として信じておいでじゃほどに、と仰せでござった。『殿はわたくしを女として好いて下さってもいる。その思いに応えられたとは思えぬし、好く好かぬは必ずしも噛み合うわけではない。なれど、頼みにされれば応えいでは。わたくしは信を置かれながら、それを果たさぬ者ではいとうない』。そう、仰せになりまらした」
 そう言い終えたマリアの両肩の辺りが、心なしか緩んだように見えた。マリアの口からこの話を聞く人間は、自分が初めてなのではないか。根拠はなかったが、ハビアンは直感的にそう思った。
「ご立派でござる。信義をお守りあったとは」
 細川越中守の正室は、周囲がうらやむほどの見目かたちだとハビアンは噂に聞いたことがあった。が、その姿を見たことはない。当の越中守が、妻を人目にさらすことを異常なまでに嫌ったからだ。
「奥方様に仕え始めたとき、わたくしは21でおりゃった。それから14年、あのお方と一緒に時を過ごせて、よい仕合せであったこと。……わたくしなどよりずっと難儀に遭うてこられたに、誰かのせいになさることものうて、いつも御主(おんあるじ)のお言葉に向き合おうとしておいでで。仕え始めたとき、『そなたはキリシタンと聞くに、南蛮寺に行かぬのか』と仰せくださったのも、奥方様でござった。わたくしは奥方様をお守りしょうと思うていたに、一番の大事には、わたくしが助けられてしまいまらした」
 そこまで言うと、マリアは二人の間に置かれた火鉢ににじり寄って火箸を手にしようとした。身共が、と短く言い、ハビアンが埋み火を起こした。
「……じゃほどに、今からでも奥方様に喜うでもらえることをしたいと思うておりゃる。その時、ハビアン殿のおしゃっていた書物のことが思い浮かんで、そのご本を女人向けにお書きになってはいかがかと思いまらした。奥方様は殿が厳しゅうて、教会(エケレジア)でミサにあずかりたい、説教を聞きたいと思うても叶いまらせなんだ。そこまでではのうても、大名家のご内室というのは気安う出歩けぬ方が多いと聞きまらする。そのような人々でもキリシタンの教えを学べるご本があれば、きっと役に立ちまらしょうず」
「それで、身共に文を」
 マリアがくすりと笑った。
「なかなか。なれども、何やら無思案な書きぶりになってしもうたと、出してから思いまらした。お許しあれ」
「とんでもないことでござる。身共こそ、雪殿の文に力づけられてござれ。――女人のための書物とは、身共は考えたことがござなかった。例の本は仏僧や学者に向けて書くつもりでござったれども」
「ではそれが成ったら、調子を多少和らげ、女たちでも読みやすい物を書かれてみては」
「妙案と存じまらする。パードレがたにも、きっと同意していただけまらしょうず。早速ではござれども、明日からこちらへ参ってもよろしゅうござるか」
 マリアが返事をしかけたとき、庭に面した障子が静かに開いた。マリアが顔を上げる。その視線の先に、若い男が立っていた。狩衣(かりぎぬ)に烏帽子を着けた、20代と思しき青年である。

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# by stan-nak | 2017-01-18 21:32 | 小説「ハビアン逍遥」(仮) | Comments(0)